2015年度慶應義塾大学総合政策学部「英語」の入試問題について、解説・誤答分析・講評を行います。

この年度の問題は、Iが「世界的な高齢化(Global Graying)」、**IIが「権力の三つの顔(The Three Faces of Power)」**という、SFCらしい「社会問題」と「政治理論」を扱った構成です。特にIIはジョセフ・ナイ(Joseph Nye)のソフト・パワー論に関連する抽象度の高い文章であり、正確な論理把握が求められました。


全体講評

  • 難易度: やや難
    • 語彙レベルが高く、単語の意味を知っているだけでは解けない「文脈上のニュアンス」を問う空所補充が多いのが特徴です。
    • 内容一致問題は、本文の言い換え(パラフレーズ)を正確に見抜く力が求められます。
  • 出題傾向:
  • 大問I: 具体的なデータと社会現象(高齢化)を扱う論説文。因果関係が比較的明快です。

大問II: 抽象的な政治学の理論。概念(第1の顔、第2の顔、第3の顔)の定義を整理しながら読む必要があります。

  • 【大問 I】 Global Graying(世界的な高齢化)

この文章は、高齢化が先進国だけでなく途上国でも進行している現状と、それがもたらす経済・政治・社会的な影響について論じています。

空所補充問題 ([1]~[20])

  • [1] 正解: 2 (confined)
    • 解説: 文脈は「この激変は先進国に**限定される(confined)**ものではない」。直後に中国やインドの例が続くため、「限られる」という意味が必要です。
    • 誤答: 1. assigned(割り当てられる)、3. attributed(起因する)は文脈不適。
  • [2] 正解: 1 (go through)
    • 解説: アジア・アフリカの貧しい国々が人口爆発を経験する(go through)
    • 誤答: 2. come away with(~を持って立ち去る)、3. make up for(埋め合わせる)。
  • [3] 正解: 3 (exceptions)
    • 解説: 世界全体が高齢化する中で、若者が多い貧しい国々は「世界的傾向の例外(exceptions)」となります。
  • [4] 正解: 1 (partial and piecemeal)
    • 解説: 直後の文で「医療専門家は病気の話、経済学者は年金の話」と、各分野がバラバラに議論している様子が描かれているため、認識は「部分的で断片的(partial and piecemeal)」です。
  • [5] 正解: 2 (lay away)
    • 解説: お金を貯蓄する(lay away)ことができなかった何百万もの人々。put money awaylay away は「取っておく」という熟語。
  • [6] 正解: 1 (abandoned)
    • 解説: 子供たちに**捨てられた(abandoned)**老人というネガティブな文脈です。それゆえに法整備(家族の価値を守る法)が必要になりました。
  • [7] 正解: 2 (at least)
    • 解説: 多くの国は、老人に対し「少なくとも(at least)」ある程度の保障を約束している。
  • [8] 正解: 3 (prescription)
    • 解説: それは労働力不足への処方箋(prescription)=「確実な原因・要因」となる。recipe for disaster と似た、「災いをもたらす決まりきった原因」というニュアンスです。
  • [9] 正解: 3 (fertility)
    • 解説: 労働力不足を防ぐために、**出生(fertility)**率を上げようとしている。
  • [10] 正解: 1 (democracy)
    • 解説: 「**民主主義(democracy)**においては、数は力である」。高齢者の数が増えれば政治力が増すという文脈。
  • [11] 正解: 1 (doubt)
    • 解説: 著者は高齢化の影響を懸念(worry)しており、「結果が良いものだとは思わない(doubt)」という文脈になります。doubtは「~ではないと思う」という否定的な推測です。
  • [12] 正解: 3 (conflict)
    • 解説: 世代間の対立(conflict)。直後の pits ... against ...(~を~と対抗させる)から判断できます。
  • [13] 正解: 2 (declines)
    • 解説: 新しい経験への開放性は年齢とともに低下する(declines)。直後のSapolskyの研究例(35歳で窓が閉じる)が根拠です。
  • [14] 正解: 2 (triggers)
    • 解説: 「もっと子供を産め」「移民を入れろ」という策は、排外主義的反応の**引き金(triggers)**となる。
  • [15] 正解: 3 (symptom)
    • 解説: 不死を語ることは、高齢化社会の初期**症状(symptom)**である。
  • [16] 正解: 1 (limits)
    • 解説: 生命の自然な限界(limits)(=死)という概念がタブーになる。
  • [17] 正解: 2 (because)
    • 解説: 「(死ぬべき時に死ぬ)それは、若い人たちが控えている**から(because)**だ」。理由の説明です。
  • [18] 正解: 1 (mercifully)
    • 解説: 「父は96歳まで生きたかもしれないが、**幸いにも(mercifully)**そうならなかった」。直後に「父の人生は私の人生を終わらせていただろう(父が生きていたら私は作家になれなかった)」とあるため、父の死は彼女にとって救いでした。
  • [19] 正解: 3 (positive)
    • 解説: 懸念ばかり述べてきたが、「もっと**前向き(positive)**になるべきかもしれない」と転換し、環境へのメリットを述べ始めます。
  • [20] 正解: 2 (avert)
    • 解説: 気候変動の大惨事を回避する(avert)

読解問題 ([21]~[30])

  • [21] 正解: 2
    • 要旨: 著者は、社会の様々な側面に対する高齢化の深刻な影響を懸念(concerned)しています。
  • [22] 正解: 3
    • 不一致問題: 本文にはブラジルの高齢者は現在7%で、2050年には「nearly a quarter(約25%)」になるとあります。選択肢3の「more than four times(4倍以上=28%以上)」は計算上誤りです。
  • [23] 正解: 1
    • 解説: セーフティネットが維持困難になるのは、「引退者が現役世代を上回る場合(if retirees outnumber active working-age people)」です。ピラミッド構造の崩壊を指します。
  • [24] 正解: 4
    • 解説: 「彼ら(高齢者)の懸念」として最もあり得ないもの。4の「キャリアパスの開拓」は若者の関心事です。
  • [25] 正解: 1
    • 解説: 米国の議論は、高齢者と若者の利益が対立する「世代間の闘争」として描かれています。
  • [26] 正解: 2
    • 解説: xenophobia(排外主義、外国人嫌悪)の意味は、「他国の人々への強い嫌悪や恐怖」です。
  • [27] 正解: 3
    • 解説: Sapolskyの研究(音楽や食事の好みの窓が閉じる)は、人は年を取るにつれて保守的になる(新しいものを受け入れなくなる)ことを支持しています。
  • [28] 正解: 3
    • 解説: 「命は保存され延長されるべきだ」という前提は、「長生き=良いこと」という推定(presumption)に基づいています。
  • [29] 正解: 2
    • 解説: Posnerの「昔は骨折して死んだ、それは素晴らしかった」という発言は、「寿命に限りがあることは、世代交代ができるという意味で恩恵(blessing)である」という立場を表しています。
  • [30] 正解: 4
    • 不一致問題: 選択肢4「我々は原因と結果を明確に理解しており、対策もできている」は本文と矛盾します。本文には「almost no one... is discussing the underlying cause(ほとんど誰も根本原因を議論していない)」とあります。

【大問 II】 The Three Faces of Power(権力の三つの顔)

政治学者ジョセフ・ナイ(およびダール、ルークス)による「権力」の定義(第1の顔:強制、第2の顔:議題設定、第3の顔:嗜好形成)に関する理論的な文章です。

空所補充問題 ([31]~[50])

  • [31] 正解: 2 (in ways)
    • 解説: shaping their preferences [in ways] that produce...(~となるような方法で好みを形成する)。
  • [32] 正解: 1 (even though)
    • 解説: 「権力の一部しか説明していないにもかかわらず(even though)、広く使われている」。譲歩の文脈。
  • [33] 正解: 3 (contrary to)
    • 解説: 第1の顔(強制)は、相手の本来の好みに**反して(contrary to)**行動させる能力。
  • [34] 正解: 2 (your)
    • 解説: 「**あなたの(your)**努力によってどれだけ変化したか」。ここでは一般的な「権力を行使する側(you)」を指します。
  • [35] 正解: 1 (on)
    • 解説: holding a gun [on] you(銃を突きつけて)。熟語的用法。
  • [36] 正解: 3 (missed)
    • 解説: ダールの定義は「第2の顔」を**見逃して(missed)**いた。
  • [37] 正解: 3 (out of bounds)
    • 解説: 他者の好みを無関係、あるいは議論の**範囲外(out of bounds)**に見せること。
  • [38] 正解: 2 (affecting)
    • 解説: 正当性への期待に**影響を与える(affecting)**ことで、好みを形成する。
  • [39] 正解: 3 (opened things up)
    • 解説: G8にG20が加わったことで、閉鎖的だった金融政策の場が少し開放された(opened things up)
  • [40] 正解: 2 (constrained by)
    • 解説: もし行動のアジェンダが脅しや報酬に**制約されている(constrained by)**だけなら、それは第2の顔ではなく第1の顔に過ぎない。
  • [41] 正解: 1 (otherwise)
    • 解説: 強制されなければ(=そうでなければ otherwise)やりたくないことをさせる。
  • [42] 正解: 1 (have been)
    • 解説: 10代の少年の好みが、見えないアクターによって形成された(have been formed)。受動態の現在完了形。
  • [43] 正解: 3 (override)
    • 解説: 相手に同じ結果を望ませることができれば、最初の欲望を**覆す・無視する(override)**必要はない。
  • [44] 正解: 3 (oppressed)
    • 解説: ブルカを着用することを選んだ女性は**抑圧されて(oppressed)**いるのか?という問い。
  • [45] 正解: 1 (reflecting)
    • 解説: 3つの顔は、ターゲットが権力の源泉を見つける難易度を反映している(reflecting)。第1(簡単)→第3(困難)。
  • [46] 正解: 2 (are embedded in)
    • 解説: 人間は複雑な構造の中に**埋め込まれて(are embedded in)**いる。
  • [47] 正解: 1 (susceptible to)
    • 解説: 抽象的な目標(環境や人権)は、第1の顔よりも第2・第3の顔の影響を受けやすい/なじむ(susceptible to)。ここでは「相性が良い」という意味合い。
  • [48] 正解: 1 (command power)
    • 解説: 第1の顔である**命令型権力(command power)**だけに注目すると誤解を招く。
  • [49] 正解: 3 (on the rim)
    • 解説: ハブ(中心)とスポーク(車輪の輻)の比喩。中心ではなく**縁(rim)**にある点同士がつながっていなければ、ハブが力を持つ。
  • [50] 正解: 2 (wield)
    • 解説: 国家がグローバルな権力を行使する(wield)wield powerは定型表現。

読解問題 ([51]~[60])

  • [51] 正解: 1
    • 解説: "when push comes to shove" は「いざという時」「切羽詰まった時」の意。「簡単な解決策が機能せず、何か過激なことをしなければならない時」が最も近いです。
  • [52] 正解: 3
    • 解説: ダールの理論(第1の顔)の典型例は、強制的な軍事力の使用です。アメとムチによる直接的な行動変容です。
  • [53] 正解: 2
    • 解説: 「議題設定(Agenda-setting)」とは、意思決定の範囲を比較的安全な問題に限定することによって権力を行使することです。
  • [54] 正解: 3
    • 解説: "co-optive"(取り込み型の)とは、説得や魅力によって相手を自分のシステムや陣営に**引き込む(persuade or lure)**ことです。ソフトパワーの中核概念です。
  • [55] 正解: 4
    • 解説: 第2の顔において、人々が提案されたアジェンダが正当(legitimate)だと納得していれば、抵抗する必要性を感じないため、強制(coercion)を回避できます。
  • [56] 正解: 1
    • 解説: 10代の少年のシャツの例は、個人の「好み」が実は不可視の要因(流行や企業の戦略)に従属していることを示すために導入されています。
  • [57] 正解: 2
    • 解説: ストックホルム症候群の例は、人の好ましい行動が自由意志によるものか、状況によるものかを区別するのが難しいことを示すために引用されています。
  • [58] 正解: 2
    • 解説: 第3の顔は、XがYの基本的な信念や好みを形成することによって行使され、Yはそのことに気づかない場合が多いです。
  • [59] 正解: 1
    • 解説: 「ミリュー・ゴール(milieu goal=環境・構造の目標)」ではないものを選びます。1の「財政援助の分配」は、具体的な資源の移動であり、「所有の目標(possession goal)」に該当します。他(外交、正当性、国際機関)は環境・枠組み作りに関する目標です。
  • [60] 正解: 4
    • 解説: 著者が3つの顔を提唱する理由は、3つ未満(単純な分類)では、ネットワークの重要性や、国家の力を評価する際の構造的な側面を捉えきれないからです。