慶應義塾大学総合政策学部(2015年度)英語の第2問(大問II)について、空欄補充問題 [31]~[50] および読解問題 [51]~[60] の詳細な解説を行います。

この文章は、国際政治学者ジョセフ・ナイ(Joseph Nye)の著書『The Future of Power』に基づいており、権力(Power)の定義、特に「3つの顔(Three Faces of Power)」―(1) 強制・命令、(2) 議題設定、(3) 選好形成―について論じたアカデミックな内容です。

[A] 空欄補充問題 [31] ~ [50] 解説

文脈の流れと文法的な整合性から正解を導き出します。

[31] 正解: 2 (in ways)

文脈: 「他者の行動に影響を与えるには、アメとムチに頼るのではなく、自分の望む結果を生むようなやり方で彼らの好みを形成することによって(可能だ)」

* 1. so: "so that" とするなら、後ろに主語が必要です(例: so that they produce...)。ここでは直後に動詞 produce が来ているため不適。

* 2. in ways: "in ways that produce..."(~を生み出すような方法で)という形で、先行詞 ways を関係代名詞 that 以下の節が修飾する形になり、文法的・意味的に適切です。

* 3. such: "such that" は「~するほど」や数学的な定義で使われますが、文脈上「~のような方法で」とするには "in such a way that" などの形が必要です。"such that produce" は不自然です。

[32] 正解: 1 (even though)

文脈: 「(ロバート・ダールの定義は)今日でも広く使われている、たとえそれが権力行動の一部しかカバーしていないとしても。」

* 1. even though: 逆接(~だけれども)。「広く使われている」事実と「不完全である」事実を対比させています。

* 2. as long as: ~する限り(条件)。

* 3. so that: ~するために(目的)、その結果(結果)。

[33] 正解: 3 (contrary to)

文脈: 「ダールの定義する権力の第一の顔は、相手の当初の好みに反する行動をとらせる能力に焦点を当てている。」

* 1. in favor of: ~に賛成して。

* 2. similar to: ~に似て。

* 3. contrary to: ~に反して。強制力(Coercion)の定義上、相手がやりたくないことをやらせるため、これが正解です。

[34] 正解: 2 (your)

文脈: 「権力を測定するには、相手の当初の好みがどれほど強かったか、そしてそれがあなたの努力によってどれほど変化したかを知る必要がある。」

* 1. their: 彼らの(相手の)努力で変化したわけではありません。

* 2. your: 「あなた(権力を行使する側)」の努力・働きかけを指します。文頭の一般論の主語 "You" に対応します。

* 3. its: その。

[35] 正解: 1 (on)

文脈: 「もし銃をあなたに突きつけた男が…」

* 1. on: "hold a gun on someone" で「(人に)銃を向ける・突きつける」という熟語的表現です。

* 2. with: ~と一緒に、~を持って。

* 3. about: ~について。

[36] 正解: 3 (missed)

文脈: 「バクラックとバラッツは、ダールの定義が『権力の第二の顔』と彼らが呼ぶものを見逃していると指摘した。」

* 1. emphasized: 強調した。

* 2. added: 加えた。

* 3. missed: 見逃した、欠いていた。ダールの定義の不十分さを指摘する文脈です。

[37] 正解: 3 (out of bounds)

文脈: 「他者の好みが(議論の)無関係なもの、あるいは範囲外であるかのように思わせる。」

* 1. to the end: 最後まで。

* 2. without limit: 制限なく。

* 3. out of bounds: 立入禁止区域、境界線の外、論外。「議題設定(Agenda-setting)」によって、特定の選択肢を最初から考慮の対象外にする(boundsの外に置く)という意味です。

[38] 正解: 2 (affecting)

文脈: 「何が正当あるいは実行可能かという彼らの期待に影響を与えることによって、他者の好みを形成することが可能かもしれない。」

* 1. betraying: 裏切る。

* 2. affecting: 影響を与える。"shape others' preferences"(好みを形成する)ための手段として適切です。

* 3. answering: 答える。

[39] 正解: 3 (opened things up)

文脈: 「2008年の危機以前は、国際金融政策はこの(閉鎖的な)特徴を持っていたが、G8がG20によって補完されたとき、いくぶん開放された。」

* 1. carried things over: 持ち越した。

* 2. took things in: 理解した、だました、取り入れた。

* 3. opened things up: 開放した、広げた。G8(先進国のみ)からG20(新興国含む)へと参加国が増えた文脈に合致します。

[40] 正解: 2 (constrained by)

文脈: 「しかし、もし行動の議題が強制の脅威や報酬の約束によって制約されているならば、それは単なる権力の第一の顔の事例にすぎない。」

* 1. contrary to: ~に反して。

* 2. constrained by: ~によって制約/強制される。「アメとムチ(脅威や報酬)」によって議題が決まるなら、それは「議題設定(第二の顔)」に見えても、実質は「強制(第一の顔)」だという論理です。

* 3. immune to: ~の影響を受けない。

[41] 正解: 1 (otherwise)

文脈: 「(権力を行使しなければ)そうでなければあなたがやりたくないであろうことをやらせる。」

* 1. otherwise: さもなければ(if not)。仮定法的な文脈でよく使われます。「権力の行使がなければ選ばなかったであろう選択」という意味です。

* 2. publicly: 公然と。

* 3. involuntarily: 不本意に。「やりたくない(not want)」と意味が重複しますし、文法的に "would involuntarily not want" は不自然です。

[42] 正解: 1 (have been)

文脈: 「彼と他のティーンエイジャーたちの好みの両方が、見えざるアクターによって**形成されてしまった(形成されている)**のである。」

* 1. have been: 現在完了受動態。過去のキャンペーン(launch)によって好みが形成され、現在その状態にあることを示します。

* 2. should have been: 形成されるべきだったのに(実際はされなかった)、あるいは形成されたはずだ(推量)。文脈は事実を述べているため不適。

* 3. had been being: 過去完了進行受動態。文法的にも非常に重く、この文脈(現在への影響)では不自然です。

[43] 正解: 3 (override)

文脈: 「もし他者があなたと同じ結果を望むようになれば、彼らの当初の欲求を**覆す(無視して強行する)**必要はなくなる。」

* 1. analyze: 分析する。

* 2. follow: 従う。

* 3. override: 覆す、乗り越える、優先する。第一の顔(強制)では相手の欲求を override する必要がありますが、第三の顔(選好形成)ではその必要がないという意味です。

[44] 正解: 3 (oppressed)

文脈: 「アフガンの女性がブルカを着ることを選ぶとき、彼女たちは抑圧されているのだろうか?」

* 1. depressed: 落ち込んでいる。

* 2. impressed: 感動している。

* 3. oppressed: 抑圧されている。社会的な強制や構造的な力についての議論におけるキーワードです。

[45] 正解: 3 (increasing)

文脈: 「(権力の第二、第三の顔は)ターゲットが権力の源泉を見つける難易度を高める。」

* 1. reflecting: 反映する。

* 2. maximizing: 最大化する。「見えなくする」ことで難易度は上がりますが、必ずしも「最大化」が目的や結果ではありません。「難易度を高める(increasing)」が最も自然な記述です。

* 3. increasing: 増やす、高める。権力が見えにくくなる=発見がより難しくなる、という意味です。

[46] 正解: 2 (are embedded in)

文脈: 「人間は文化、社会関係、権力の複雑な構造の中に埋め込まれている。」

* 1. make up for: 埋め合わせる。

* 2. are embedded in: ~に埋め込まれている、組み込まれている。社会学的な "embeddedness"(埋め込み)の概念です。

* 3. keep out of: ~の外にいる、関わらない。

[47] 正解: 1 (susceptible to)

文脈: 「国家が追求するいくつかの目標は、権力の第一の顔よりも、第二、第三の顔を受け入れやすい(によって達成されやすい)。」

* 1. susceptible to: 感受性がある、影響を受けやすい。(ここでは「(目標が)第二・第三の顔という手段になじむ、影響を受け入れて達成されやすい」というニュアンス)。学術的文脈では「(解決策など)を受け入れる余地がある」という意味で使われます。

* 2. valuable to: ~にとって価値がある。目標が権力の顔にとって価値があるわけではありません。

* 3. comfortable with: ~にとって心地よい。

[48] 正解: 1 (command power)

文脈: 「**命令権力(強制力)**である第一の顔だけに焦点を当てることは、そのような(環境的)目標をどう促進するかについて誤解を招くかもしれない。」

* 1. command power: 命令権力。第一の顔(強制)の言い換えです。

* 2. intangible power: 無形の力(第二・三の顔の特徴)。

* 3. social power: 社会的権力。

[49] 正解: 3 (on the rim)

文脈: 「もし縁(リム)にある各点(スポークの先)が互いに直接つながっていなければ…」

* 1. at the front: 前面の。

* 2. in the domain: 領域内の。

* 3. on the rim: 縁にある、外周にある。「ハブ(中心)とスポーク(車輪の輻)」の比喩における、外側の点です。

[50] 正解: 2 (wield)

文脈: 「国家は他国と共に行動することによって、グローバルな権力を**行使する(振るう)**ことができる。」

* 1. devise: 考案する。

* 2. wield: (権力や武器を)行使する、振るう。 "wield power" は定型的なコロケーションです。

* 3. lodge: 提出する、宿す。

[B] 読解問題 [51] ~ [60] 解説

[51] 正解: 1

問い: 第1段落の "when push comes to shove" の意味に最も近いものは?

* 解説: "If/When push comes to shove" は慣用句で「いざとなれば」「切羽詰まったら」「事態が悪化したら」という意味です。

* 1. 容易な解決策がうまくいかず、より抜本的な何かをしなければならない時。(文脈:アメとムチは最後の手段(=いざという時)に使われるものだが、そうなる前に相手の好みを変えればいい、という文脈に合致します。)

* 2. 問題が来ては去り…。

* 3. デッドロック(行き詰まり)に直面し、何もできなくなった時。(何もできないわけではなく、強制力を使う段階。)

* 4. 問題の難易度が…。

[52] 正解: 3

問い: ダールの権力理論(第一の顔)の主要な例はどれか?

* 解説: ダールの理論は「相手がしたくないことをさせる力」、つまり「強制(Coercion)」です。

* 1. 技術的・経済的支援(アメ/報酬の要素があるが、強制ではない)。

* 2. グローバルな社会的ネットワーク(構造的権力)。

* 3. 強制的な軍事力。(これが最も直接的な "Command Power" の例です。)

* 4. 戦略的コミュニケーション(ソフトパワー/説得)。

[53] 正解: 2

問い: この記事における「アジェンダ・セッティング(議題設定)」とは何か?

* 解説: 権力の第二の顔であり、特定の不利な問題を議論のテーブルに乗せないようにすることです。

* 1. 問題を明確にするために議題をコントロールする。(逆です。問題を隠蔽します。)

* 2. 意思決定の範囲を比較的安全な問題に限定することによって権力が行使される。(正解。「安全な問題」に限定=都合の悪い問題を排除する。)

* 3. 他者に影響を与える最終決定に参加する。(これは第一の顔に近い。)

* 4. 何かをしているように見せるために…。

[54] 正解: 3

問い: 第7段落の形容詞 "co-optive" の用法に最も合う "co-opt" の定義は?

* 解説: 著者のナイは "Soft Power" の文脈で "co-opt" を「(強制ではなく)味方に引き入れる」「取り込む」という意味で使っています。

* 1. 投票によってメンバーに加える。

* 2. 仲間として指名する。

* 3. (反対者などを)自分のシステムや党などに加わるよう説得したり誘い込んだりする。(正解。「取り込み型」の権力。)

* 4. 他人の目的のために利用する。

[55] 正解: 4

問い: 権力の第二の顔は、どのようにして強制を避けつつ他者に権力を行使できるのか?

* 解説: 相手に「今の状況(議題)が正当だ」と思わせることで、抵抗をなくします。

* 1. トラウマ的な状況に置かれると…(ストックホルム症候群の話で、これは極端な選好形成の例)。

* 2. 不可視なので気づかない(部分的ですが、核心は「正当性の受容」)。

* 3. 報酬の約束(これは第一の顔)。

* 4. もし人々が、自分たちの好みは無関係である、あるいは提案された議題は正当であると確信すれば、その行動に抵抗する必要がなくなる。(正解。本文中の "If they accept the legitimacy of the institutions..." に対応。)

[56] 正解: 1

問い: 第6段落で十代の少年の話を紹介した意図は?

* 解説: 自分の意思で選んだつもりでも、実は広告(見えざるアクター)によって好みが作られている(第三の顔)ことを示すため。

* 1. 人の好みは不可視の要因の影響を受ける。(正解。)

* 2. 人々はしばしば自発的な意思に基づいて行動する。(逆です。自発的に見えてそうではない例。)

* 3. 好みは自由意志の主要な例である。

* 4. 若者は年長者より自由に行動する傾向がある。

[57] 正解: 2

問い: 第7段落でストックホルム症候群が引用されている理由は?

* 解説: 極端な状況下では、被害者が犯人に同調してしまうことがあり、「何が自発的な好みの形成か」を判断するのが難しいことを示す極端な例として挙げられています。

* 1. 人は周囲の人に好意的に影響されやすい。

* 2. ある人の好む行動が、その人の自由意志に由来するかどうかを見分けるのはしばしば困難である。(正解。"difficult to ascertain what constitutes voluntary formation of preferences" に対応。)

* 3. 無関係に見える問題も権力理論の一部である。

* 4. 誘拐の被害者が誰かの解釈は権力関係による。

[58] 正解: 2

問い: この記事における権力の第三の顔を記述しているのはどれか?

* 解説: 第三の顔=ルークス(Lukes)。「相手の欲求そのものを形成・決定する力」。相手はその影響に気づかないことが多い。

* 1. 選択肢を制限する(第二の顔)。

* 2. XはYの基本的あるいは当初の好みを形成するのを助ける。Yはこれに気づかないか、Xの力の影響を認識しない可能性が高い。(正解。)

* 3. 脅しや報酬(第一の顔)。

* 4. 状況を変えることで好みを形成するが、YはXの意図を知っている。(知っていたら操作は成功しにくい。また文脈上、第三の顔は最も不可視。)

[59] 正解: 1

問い: 環境目標(milieu goal)の例として不適切なものは?

* 解説: Milieu goals(環境目標)は構造的・無形のもの(民主主義の促進、自由市場、人権など)。Possession goals(所有目標)は具体的・有形のもの(資源、貿易協定など)。

* 1. 財政援助の分配。(これは具体的・有形のリソースの分配であり、Possession goal に近いため、Milieu goal の例としては不適切です。)

* 2. パブリック・ディプロマシーの促進(無形・環境形成)。

* 3. 選挙の正当性の保護(民主主義というシステムの維持=Milieu)。

* 4. 国際機関の設立(構造・制度の構築=Milieu)。

[60] 正解: 4

問い: 著者が権力の三つの顔を一つにまとめない理由として述べていることは?

* 解説: 第10段落 "The reason not to collapse all three faces of power into the first is that doing so diminishes attention to networks..." に明確に書かれています。

* 1. 相互に包括的だから。

* 2. 質的に異なるから(ハードとソフト)。

* 3. 可視性の問題だから。

* 4. 3つ未満の区分では、権力に対するネットワークの関連性を捉え損なうから:通信ネットワークは国家の権力を評価する上で重要である。(正解。「ネットワークへの注意が削がれてしまう」という記述と合致します。)